2012年9月の記事一覧
受動喫煙とその影響
日々の診療の中で子どもの治療に付き添う保護者から、「うちの子どもは歯茎の色が墨のように黒いのですが何か病気でしょうか」とよく聞かれる。
私は患者さんにいくつか問診をする時に、「タバコは吸われますか。または家族で誰か吸われる方はいますか」と必ず聞く。
昨今、タバコが健康に及ぼす害というのは多く報告されており喫煙者には肩身の狭い社会になっているが、実はタバコの煙には数千種類以上の化学物質が含まれており、タールやニコチン、一酸化炭素などの有害物質が含まれている。
特にタールは多くの発がん性物質を含み、こうした有害物質は喫煙者が吸い込む煙(主流煙)よりも、タバコの先から出ている煙(副流煙)に多く含まれており、非喫煙者でもこのタバコの煙を吸い込むこと、いわゆる受動喫煙によって健康への害が生じる。
ある調査によると、非喫煙者の妻が1日20本以上の喫煙をする夫を持つ場合、非喫煙者の夫を持つ人に比べて肺がんで死亡する率が2倍も高いという結果が報告されている。
また2006年に公表された「米国公衆衛生総監報告」でも、受動喫煙による健康への影響について、次のような報告がされている。
①受動喫煙によって冠動脈心疾患のリスクが25% ~30% 増加する。
②喫煙者との同居に伴う受動喫煙が原因で、肺がんリスクが20% ~30% 増加する。
③受動喫煙と乳幼児突然死症候群の間には関係がある。
④親の喫煙による受動喫煙と、幼児および子どもにおける下気道疾患の間には関係がある
⑤親の喫煙と、中耳炎や慢性滲出性中耳炎などの小児の中耳疾患の間には関係がある。
家庭や職場で副流煙にさらされている成人非喫煙者では、歯周病のリスクが57% も高くなり、一方、子どもの場合は喘息やアレルギー疾患の危険因子となることが知られている。
家族に喫煙者がいる家庭の子どもでは、喫煙者がいない子どもと比べ、4~6倍もの高率で歯肉の黒ずみがみられる。
また、受動喫煙による子どもの歯肉の黒ずみの出現頻度は、これまで受動喫煙が発症の一因とされていた喘息やアレルギー疾患よりも高率だった点も注目される。
このように、特に子どもでは受動喫煙によって歯肉の黒ずみが顕著に現れることが最近分かってきている。
喫煙者自身はもちろん、タバコを吸わない子どもたちの歯の健康を守るという意味からも、禁煙の意義は大きいだろう。