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2017年1月の記事一覧

無意識の生活習慣・TCH

  無意識のうちに上下の歯をつける癖のことを上下歯列接触癖(Tooth Contacting Habit=TCH)といいます。
 上の歯と下の歯は常時接触していると誤解している人も多いようですが、人は通常口を閉じていても上下の歯はどこにも接触していません。歯が触れるのは会話、食事をするとそしゃくえんげきの咀嚼、飲み込みなど嚥下をするときですが、その接触は一瞬ですので、接触時間を合計しても一日あたり20分以内といわれています。現代人が歯を失う理由の約7割はむし歯と歯周病が占めますが、TCHがあると、この2つの病気の進行が加速する可能性が高いといわれています。歯周病の場合、TCHがあると、常時歯に過大な力がかかるため、癖のない患者さんに比べると歯のぐらつきが早まります。むし歯で詰めものやかぶせものをした歯でも、上下の歯が触れる力がそれぞれの歯の耐えられる力の限界を超えてしまうと歯が折れるなどの症状が出てきます。その結果、TCHがある患者さんはない患者さんに比べて速いペースで歯を失っていくことになります。
 TCHは、無意識の生活習慣や癖なのでなかなか自分では気づきません。TCHかどうかの判断の一つに口の周りの緊張持続があります。それは、頬の内側や舌の周りに歯形ができているかを見ると分かります。上下の歯を接触させ顎を閉じる閉口筋を緊張させたままでいますと、頬の内側に歯を押しつけたままになるため歯形が付きます。また閉口筋が緊張しているときには舌を動かす舌筋も緊張し、舌の周りの歯や上の口蓋に押し付けたままになるため歯形が舌に付きます。頬の内側と舌のいずれにも歯形がみられる人は、TCHがある可能性が高いと考えられます。しかし、この歯形はTCHのある人の絶対条件ではありません。正確な診断をするには、歯科医に診断してもらう必要があります。
 自分にTCHの癖があると分かっても、そこから抜け出すことは大変困難です。そこで、東京医科歯科大学のグループでは、臨床心理学で用いられる「行動変容法」を推奨しています。その方法は、第1ステップでは、数秒間軽く歯を接触させ、その後離してみます。頬の筋肉の感覚の変化を意識し、上下の歯が触れていることで筋肉と歯には常に力が掛かっていることを認識します。第2ステップは、「歯を離す」「リラックス」など脱力するきっかけになる言葉を書いた紙を身の回りに張り、それを見たら脱力し、歯を離すことを繰り返します。繰り返しているとついには貼り紙を目にしただけで、何も考えずに脱力行動をとれるようになります。このように条件反射ができるようになると、第3ステップは、歯が接触しただけで条件反射が起き、歯の接触刺激で無意識に脱力行動が起きるようになります。このようにTCHがなくなれしそうこつば、歯や歯槽骨に掛かる負担は減り、歯の耐久年数は確実に向上するでしょう。